一方先進地域も相対的にはかなり低下したことが注目される。その両者の低下の効果で世界のTFRは5から3の水準にまで低下した。途上国の中でも特に中国を抱える東アジア、東南アジア、中米、カリブ海の島々で低下が著しい。しかし、サハラ以南のアフリカ、中近東の国々、そしてインド亜大陸の中のパキスタン、アフガニスタンといったところはTFRがまだ非常に高い。特にサハラ以南のアフリカは平均で1990−95年6.30と非常に高く、また出生率低下の条件がととのっていない。
元来、TFRの水準はその国、その地域の家族計画実行率と非常によく相関する。国連人口部が1996年にまとめた報告書によれば、15−49歳の再生産年齢の女性がいる夫婦に関して、途上地域は53%の夫婦が避妊を実行しており、中でも東アジアは79%という高率である。ラテンアメリカとカリブ海の諸国も59%と高い。しかし一方、サハラ以南のアフリカはわずか13%と非常に低く、北アフリカ39%、東アジア以外のアジアは43%となっている。途上地域では、サハラ以南のアフリカが特に低いことが注目される。
国連の将来中位人口推計は、途上地域のTFRが2040年までに2.14とほぼ人口の置き換え水準、つまり死亡率を考慮に入れて世代間の1対1の交替を可能にする出生率の水準、にまで低下すると仮定している。これはある意味で、いささか途上地域の出生率低下の将来について楽観的な推計とも考えられるが、その実現のためには、サハラ以南のアフリカは2020−30年までにTFR3.34、2030−40年までに2.50へと格段に速い低下を経験しなければならない。そのためには、現在わずか13%の避妊普及率はそれぞれ約50%、70%くらいまでに増加する必要がある。はたして、現在きわめて貧しく、女性の教育程度が低く、家夫長制家族制度が強く、しかも社会のインフラが貧弱なこの広大な大陸で、そのような大規模な避妊の普及が飛躍的に行われるかどうかは、必ずしも保証できないことであろう。
これまでの人口変動、死亡率・出生率に関する指導的理論の一つは「人口転換学説」であった。この理論は、ヨーロッパの死亡率と出生率の低下の歴史を基に構築された帰納理論であるが、その多産多死から多産中死を経て少産少死に至る過程は、社会の近代化、すなわち工業化、都市化、生活水準の向上に沿ってほぼ必然的に、ヨーロッパ以外でも普遍的に起こるということを予見する仮説である。現に近代化と共に、多
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